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”もしも”に備える「緩和ケア」ガイド

こんにちは、ファイナンシャルプランナーの橋本です。

皆さんは「緩和ケア」という言葉を聞いて、どんなイメージをお持ちでしょうか?もしかしたら、「人生の最期の段階で行われるもの」「痛みを和らげるためのもの」といったイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんね。

30代から40代で子育て真っ最中の皆さんにとって、ご自身の健康はもちろん、大切なご家族の将来についても、日々深く考えられていることと思います。そんな中で、もしも予期せぬ病気に直面したら、ご家族との時間や、お子さんのこと、そしてこれからの生活はどうなるのだろう、と不安になることもあるのではないでしょうか。

実は、緩和ケアは、皆さんが想像している以上に、私たちの生活と深く関わり、人生の質(QOL)を豊かに保つための大切なアプローチなのです。今回は、皆さんの不安を少しでも和らげ、未来への備えを考えるヒントとして、緩和ケアについて詳しくお話ししていきたいと思います。

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<目次>

1.緩和ケアとは?

2.緩和ケアと「終末期ケア」の違い:誤解をなくして早期からのサポートを

3.なぜ今、子育て世代の皆さんに緩和ケアの知識が必要なのか?

4.緩和ケアはどこで、どうやって受けられる?

5.緩和ケアを効果的に受けるために:伝え方と支え方

6.おわりに

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1.緩和ケアとは?

まず、緩和ケアとは一体何なのでしょうか。世界保健機関(WHO)は、緩和ケアを次のように定義しています。

「緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、疾患の早期より痛み、身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題に関してきちんとした評価をおこない、それが障害とならないように予防したり対処したりすることで、クオリティー・オブ・ライフ(QOL:生活の質)を改善するためのアプローチである。」

この定義からもわかるように、緩和ケアは単に身体的な痛みを取り除くことだけではありません。

・病気によって生じる身体的なつらさ(痛み、倦怠感、吐き気など)

・社会的な問題(仕事や経済的なこと)

・スピリチュアルな問題(人生の意味や価値観)

自分らしい生活を送れるように支えることを目指します。

注目していただきたいのは、このケアが「疾患の早期より」提供されるという点です。つまり、緩和ケアはがんと診断された時から、そしてがん治療と並行して受けることができるケアなのです。

2.緩和ケアと「終末期ケア」の違い:誤解をなくして早期からのサポートを

ここでよくある誤解について触れておきましょう。

「緩和ケアは、もう治療法がないと言われた時の、いわゆる【終末期ケア】として行われるもの」と思われがちですが、これは正確ではありません。

緩和ケアが目指すのは、「がんと診断されたその日から」患者さんとご家族が抱えるあらゆる苦痛を和らげ、QOLを向上させることです。例えば、外科手術、化学療法、放射線療法といった、がんを治すための治療(根治治療)を受けている間にも、その副作用や病気の症状でつらい思いをすることがありますよね。緩和ケアは、こうした治療中の苦痛を和らげ、治療が続けられるようにサポートする役割も担います。

緩和ケアは「死を早めたり、引き延ばしたりしない」とされています。生命を尊重し、自然な死を認め、患者さんが死を迎えるまで自分らしい人生を積極的に生きられるように支えるアプローチです。

つまり、緩和ケアは時期を限定しない、より広い概念であり、患者さんが病気と向き合う期間全体を通して、その人らしい生活を支えるためのものです。終末期だけでなく、「がんと診断されたときから」始まるケアであるという点が、大きな違いであり、最も大切なポイントです。

3.なぜ今、子育て世代の皆さんに緩和ケアの知識が必要なのか?

女性の約50%、男性は約65%が生涯のうちに何らかのがんになると言われています。がんは、決して他人事ではない、身近な病気なのです。

もしご自身や大切なご家族ががんと診断された時、緩和ケアを早期から受けることで、痛みや倦怠感などの身体的な症状が和らぎ、気持ちの落ち込みも軽減され、自分らしい生活を取り戻すことができます。

「痛みは、あなたの生きるエネルギーを奪います」 とあるように、症状の苦痛は、ご家族と過ごす大切な時間や、お子さんとの触れ合い、そして仕事など、皆さんの日常を大きく奪ってしまう可能性があります。緩和ケアを早期から活用することで、これらの苦痛を最小限に抑え、治療と並行して充実した日常生活を送ることが可能になります。

実際に、緩和ケアを受けた方の体験談の中には、

• 「何の景色を見ても色がついておらず、何を食べても味はわからず、どんな歌もただの虚しい音にしか聞こえなかった」状態から、痛みが和らぎ「鮮やかな色のついた景色を見るようになり、たくさんの美味しいものを食べ、いろいろな歌が心に響くようになった」という声もあります。

• 患者さんだけでなく、ご家族も「この先生に任せておけば大丈夫だよ。」と感じ、「大丈夫」という安心感を得られたという話 や、ご家族が多くの人に支えられながら、別れの準備を、自分たちらしい形で築けたという話 もあります。

子育て世代の皆さんにとって、ご自身のQOLを保つことは、ご家族の生活を守ることにも直結します。緩和ケアに関する知識は、いざという時に、ご自身やご家族にとって最適な選択をするための「心の準備」となるはずです。

4.緩和ケアはどこで、どうやって受けられる?

では、緩和ケアは具体的にどのような場所で、どのように受けられるのでしょうか。主な選択肢は以下の3つです。

① 通院(外来)

    ◦ がん治療を担当する一般の外来や、緩和ケア専門の外来で、医師や看護師から症状緩和のケアを受けられます。入院中に緩和ケアを受けていた方が退院後も継続して利用することも可能です。

② 入院

    ◦ がん治療のために入院している一般病棟でも緩和ケアは受けられます。

    ◦ 緩和ケア病棟(ホスピス)は、緩和ケアに特化した専門病棟です。がんを治す治療が難しい、またはその治療を希望しない方を対象に、身体的・精神的なつらさに対する専門的なケアを提供します。

        ▪ 特徴: できる限り日常生活に近い環境が整えられ、共用のキッチンやラウンジがあることも多く、ご家族との時間も大切にできます。

        ▪ チーム医療: 医師、看護師のほか、介護士、管理栄養士、薬剤師、ソーシャルワーカー、臨床心理士、理学療法士、音楽療法士、ボランティアなど、多様な専門職が連携し、患者さんとご家族を包括的にサポートします。これは緩和ケアの大きな特色です。

        ▪ 入院条件: 主に進行性のがんや後天性免疫不全症候群(AIDS)で治癒が困難と判断され、身体的・精神的な苦痛がある、かつ治療を望まず最期まで安心して生活したいと望む方が対象となります。

        ▪ 入院期間: 平均的には2週間から1ヶ月程度が多いですが、患者さんの状況によって異なります。症状が落ち着けば退院し、自宅療養へ移行することも可能です。

        ▪ 費用: 公的医療保険が適用され定額制ですが、差額ベッド代や食費などがかかります。例えば、緩和ケア病棟に入院した場合、医療費として3割負担の方は約15,000円/日が目安です。このほかに食事代や個室代などが別途かかります。高額療養費制度も利用可能ですので、詳細は各病院のソーシャルワーカーに相談しましょう。入院を希望する場合は、まず担当医師やがん相談支援センターに相談し、申し込みを行うのが一般的な流れです。

        ▪ もし緩和ケア病棟への入院が難しい場合、「ホスピス型住宅」という自宅に近い環境で医療・介護サービスを受けられる選択肢もあります。

③ 在宅療養(自宅)

    ◦ 住み慣れたご自宅で、訪問診療の医師、訪問看護師、訪問介護員などのサポートを受けながら、安心して緩和ケアを受けることができます。

    ◦ 自宅でのケアは費用が比較的抑えられる可能性もあり、介護保険の活用も可能です。ご家族の休息のための短期入院(レスパイト入院)という選択肢もありますので、介護の負担を感じたら相談してみましょう。

どのようなケアを選ぶべきかは、患者さんの症状やご家族の状況によって異なります。医療者と十分に話し合い、ご自身やご家族にとって最適なケアを見つけることが何よりも重要です。全国のがん診療連携拠点病院に設置されている「がん相談支援センター」でも、緩和ケアに関する情報提供や相談が無料で受けられます。

5.緩和ケアを効果的に受けるために:伝え方と支え方

緩和ケアをより効果的に受けるために、大切なことがあります。それは、「つらさを我慢しないこと」です。

痛みや吐き気などの症状は、軽いうちに治療を始めれば、短期間で十分に和らげることができます。

• 「いつから」

• 「どこが」

• 「どのようなときに」

• 「どんなふうに」

• 「どのくらい」

つらいのか、具体的に医師や看護師に伝えることが大切です。症状日誌をつけるのも良い方法です。

特に、がんの痛みに対して処方される医療用麻薬については、「依存性がある」「最後の手段」といった誤解が多いですが、医師から処方されたものを正しく使えば、依存や中毒は起こりません。安心して使用することで、痛みが和らぎ、ぐっすり眠れるようになり、生活しやすくなります。

そして、一番大切なのは、「あなたが緩和ケアの中心である」ということです。ご自身の「どのように過ごしたいか」という気持ちを、ご家族や医療チームに遠慮なく伝えましょう。体調や時期によって気持ちが揺らいでも、その気持ちを正直に伝えることで、あなたの希望を大切にしてもらえるはずです。ご家族とも普段からよく話し合い、今後のことについて共有しておくことも重要です。

また、緩和ケアは患者さんご本人だけでなく、ご家族のつらさも和らげます。ご家族も「第二の患者」と言われるほど、心身の負担を抱えることがあります。ご家族も遠慮なく、医療者に自分のつらさや困りごとを相談して構いません。必要であれば、ご家族専用の外来や、大切な人を亡くした後のケア(グリーフケア)も受けられる施設もありますので、ぜひ活用してみてください。

6.おわりに

ここまで、緩和ケアについて詳しくお話ししてきました。緩和ケアは、決して「最期の時だけ」のものでも、「特別な人だけ」のものでもありません。がんと診断されたときから、患者さんとそのご家族が「自分らしく」人生を生きるための、寄り添うケアなのです。

子育て世代の皆さんにとって、ご自身の健康はご家族の未来に直結します。もしもの時に慌てないためにも、緩和ケアについて正しい知識を持ち、早いうちからご家族と話し合い、どのような選択肢があるのかを知っておくことは、非常に大切な「備え」となります。

人生は予期せぬ出来事の連続ですが、知識と準備があれば、どんな状況でも「大丈夫」という安心感を手にすることができます。

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