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死後離婚| 知っておきたい家族とこれから選択

こんにちは、ファイナンシャルプランナーの橋本です。

皆さんは「死後離婚」という言葉を聞いたことがありますか? 一見すると、「亡くなった方と離婚するなんて、どういうこと?」と驚かれるかもしれませんね。しかし、近年、この「死後離婚」を選択する方が増えており、決して他人事ではない選択肢になりつつあります。

家族の形や価値観が多様化する現代において、私たちは「自分らしい人生」や「心穏やかな生活」を追求するようになっています。それは、配偶者が亡くなった後の家族関係についても例外ではありません。今回は、この「死後離婚」について、ファイナンシャルプランナーの視点から、その内容、メリット・デメリット、そしてこれからの人生を豊かにするためのヒントを、中立的な立場でお話ししたいと思います。

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<目次>

1.「死後離婚」とは、一体どんなこと?

2.なぜ「死後離婚」を選ぶ人が増えているの?背景にある時代の変化

3.どのような背景から選択されているか?

4.「死後離婚」で変わること・変わらないこと

5.「死後離婚」の注意点と後悔しないためのポイント

6.まとめ:時代とともに変わる「家族」のあり方

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1.「死後離婚」とは、一体どんなこと?

まず、「死後離婚」という言葉について、正確な意味からご説明します。

「死後離婚」は、法律上の正式名称ではありません。正式には、「姻族関係終了届(いんぞくかんけいしゅうりょうとどけ)」を市区町村役場に提出する手続きを指します。

配偶者が亡くなると、法律上、夫婦の婚姻関係は自動的に終了します。そのため、亡くなった配偶者と改めて離婚するということはできません。

では、何が終わるのかというと、それは「亡くなった配偶者の血族(ご両親、ご兄弟姉妹など、いわゆる姻族)との法律上の関係」です。配偶者が亡くなっても、この姻族関係は自動的には終了しないため、手続きをしない限り、法的な繋がりは続きます。

この届け出は、届け出る人(主に亡くなった配偶者の妻)が単独で、配偶者の親族の同意を得ることなく提出できます。提出期限もありませんので、配偶者の死亡後であればいつでも手続きが可能です。

2.なぜ「死後離婚」を選ぶ人が増えているの?背景にある時代の変化

「死後離婚」という選択肢が注目され、実際に手続きをする方が増えているのは、現代社会における家族のあり方や個人の価値観の変化が大きく影響しています。法務省の戸籍統計によると、姻族関係終了届の提出件数は以下のように推移しています。

年度件数
平成19年度(2007)1,832件
平成29年度(2017)4,895件
令和5年度(2023)3,159件

この統計を見ると、2010年代以降、件数が増加傾向にあり、ピークは過ぎたものの、近年は増加傾向にあります。

3.どのような背景から選択されているか?

・姻族関係におけるストレスからの解放

「夫は良い人だったけれど、義理のご両親との関係に悩んでいた」という声は少なくありません。配偶者が存命中は我慢できていた関係も、亡くなった後は「もう、全てが嫌になってしまった」と感じ、関係を「リセットしたい」「区切りをつけたい」と考えるケースがあります。特に、長年にわたる義実家からの口出しや理不尽な扱いに耐えてきた方が、配偶者の死をきっかけに縁を断ち切りたいと願う傾向が見られます。

・介護や扶養の負担への懸念

「将来、義理のご両親の介護をすることになるかもしれない」という不安から、死後離婚を検討するケースも多くあります。法律上、配偶者の血族に対しては、通常、扶養義務はありません。しかし、慣習として「嫁だから」と介護や経済的援助を求められる風潮が残っている場合があり、それを避けたいという意向が背景にあります。

・個人の意思を尊重する価値観の広がり

かつての日本では「家」という意識が強く、結婚は個人と個人の結びつきだけでなく、「家と家」の結びつきと捉えられがちでした。しかし、現在は核家族化が進み、個人の自由や選択がより尊重される時代です。再婚を視野に入れた際、前の配偶者の姻族関係を整理しておきたいという方もいらっしゃいます。

・情報へのアクセスと制度の認知度向上

「死後離婚」という言葉やその制度がメディアなどで取り上げられる機会が増え、多くの人がその存在を知るようになったことも、利用件数増加の一因です。手続き自体も比較的シンプルで、単独で行えるため、心理的なハードルが低いと感じる方もいるでしょう。

4.「死後離婚」で変わること・変わらないこと

死後離婚を検討する上で、特に気になるのが、経済的な影響やご自身、そしてお子さんへの影響ではないでしょうか。ファイナンシャルプランナーとして、この点が非常に重要だと考えます。

【「死後離婚」をしても変わらないこと】

・配偶者の遺産を相続する権利は変わりません

「死後離婚」は亡くなった配偶者との婚姻関係を解消するものではないため、配偶者としての相続権はそのまま維持されます。すでに相続した財産を姻族に返還する必要もありません。

・遺族年金は引き続き受給できます

遺族年金は、配偶者との婚姻関係に基づいて支給されるものです。「死後離婚」は姻族関係を終了させる手続きであり、配偶者としての地位には影響しないため、受給資格が失われることはありません。

・名字(姓)は自動的には変わりません

旧姓に戻したい場合は、別途「復氏届(ふくしとどけ)」を提出する必要があります。

【「死後離婚」によって変わること】

・配偶者の血族(姻族)との法律上の関係が終了します

これにより、義理のご両親からの介護や経済的扶養を求められる可能性がなくなります。また、同居されている場合は、同居解消のきっかけにもなるでしょう。

・お墓や祭祀(さいし)の承継

「死後離婚」は、ご自身のお墓に入る場所や、亡き配偶者の実家のお墓や仏壇などの管理(祭祀承継)に直接影響を与えるわけではありません。しかし、義理のご両親の持つお墓に入りたくない、またはその管理の責任から解放されたいという動機で死後離婚を検討する方もいらっしゃいます。もし祭祀承継者に指定されていた場合、死後離婚をしてもその地位は自動的に失われないため、親族と話し合って新たな承継者を決める必要があります。この話し合いは、時に大きなストレスになる可能性もあります。

【特に注意が必要な点】

・借金など「負の遺産」の相続は影響しません

「死後離婚」をしたからといって、亡くなった配偶者の借金などの負債を引き継がなくて済むわけではありません。借金を相続したくない場合は、「相続放棄」という別の手続きを、相続開始を知ってから3ヶ月以内に行う必要があります。これはファイナンシャルプランニングにおいて非常に重要なポイントです。

・お子さんへの影響

「死後離婚」で姻族関係が終了するのは、あくまで届け出たご自身と配偶者の血族との間です。お子さんと亡くなった配偶者の親族(祖父母など)との間は、血縁関係があるため、法的な親族関係は継続します。

そのため、お子さんの名字は自動的に変わらず、変更するには家庭裁判所での手続きが必要です。また、お子さんが将来、祖父母の介護や扶養の義務を負う可能性も残ります。お子さんが義理のご両親と良好な関係を築いている場合、死後離婚によって関係が悪化し、お子さんが板挟みになってしまうことも考えられます。

5.「死後離婚」の注意点と後悔しないためのポイント

「死後離婚」には、心の平穏を得られるなどのメリットがある一方で、慎重に検討すべきデメリットも存在します。

・一度手続きすると取り消しができません

生前の離婚であれば再婚という形で関係を復活させることも可能ですが、「死後離婚」は一度終了した姻族関係を元に戻すことはできません。

・姻族に知られる可能性と関係悪化のリスク

役所から姻族に通知されることはありませんが、戸籍には「姻族関係終了」の事実が記載されます。何らかのきっかけで姻族が戸籍を確認した場合、その事実を知り、感情的な対立が生じる可能性も十分に考えられます。お子さんがいる場合は、その関係悪化がお子さんにも影響を及ぼすかもしれません。

・ご自身の墓の準備

姻族関係を終了した場合、亡くなった配偶者の実家のお墓に入る選択肢がなくなることが多く、ご自身のお墓を新たに準備する必要が出てくる可能性があります。これは将来的な費用負担や手続きの手間を伴うため、ライフプランに含めて考えるべき点です。

・現実的な問題解決になるのか

姻族の介護義務を避けたい、お墓の管理をしたくないといった理由の場合、死後離婚をしなくても解決できるケースもあります。例えば、同居していない限り、嫁に姻族の介護義務は通常発生しませんし、同じお墓に入る義務も元々法律上ありません。本当に死後離婚が必要なのか、ご自身の状況をよく見極めることが大切です。

6.まとめ:時代とともに変わる「家族」のあり方

「死後離婚」という言葉が広まり、実際に手続きをする方が増えていることは、「家族」というものの捉え方や、個人と家族、社会との関係性が、時代とともに大きく変化していることの表れだと言えるでしょう。

かつての「家制度」のもとでは、個人の意思よりも「家」の存続や伝統が重んじられる傾向にありました。しかし、現代では、個人の尊厳や幸せ、そして何よりも「心穏やかな人生」を送ることが重視されるようになっています。配偶者の死後も、義理の家族との関係に縛られ、ストレスを抱え続けるのではなく、ご自身の意思で関係を整理し、新たな人生を歩むという選択肢が認識され、受け入れられつつあるのです。

「家族」の形や関係性は一つではありません。ご自身の人生、そして家族、特に大切なお子さんの将来のために、どのような選択が最善なのかを、感情的になることなく、冷静に、そして多角的に考えることです。

これからも、家族を取り巻く法律やサービスの整備が進み、個々のライフスタイルに合わせた選択肢がさらに増えていくと考えられます。時代の流れとともに変わる家族観を踏まえ、ご自身やご家族にとって最適な手続きを選択されることをおすすめします。

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